大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和35年(ネ)390号 判決

事実

被控訴人の請求原因事実。

「株式会社東京富島組大阪支店は清和産業株式会社宛に昭和三四年九月五日、額面金二十五万円、支払期日昭和三四年一一月三〇日、支払場所実業組合梅田支店、支払地振出地共に約束手形を振出し、右手形は、拒絶証書作成の義務を免除して、白地式裏書にて、清和産業株式会社、控訴人、株式会社ミツワ工業、古井田天親、古井田久子、被控訴人に順次譲渡され、現に被控訴人はその所持人である」

控訴人の抗弁。

「本件手形は、株式会社東京富島組大阪支店の従業員が受取人で第一裏書の裏書人たる清和産業株式会社の代表取締役清水一夫の詐言にかかつて無権限に右富島組の商号を用いて振出した偽造手形であり、被控訴人は右清水から右事情を知りながら右手形の交付を受けた上、控訴人に対し、銀行で割引を受ける都合上裏書をされたい、不渡になつても裏書の責任を問わない、と申向けたので、これに応じた次第であるから、控訴人は右約旨上被控訴人に対しては本件手形金支払の義務を負わない。」

理由

控訴人が被控控人主張の要件の記載ある本件手形に裏書したことは争わないところである。

すでに裏書(署名又はこれに代る記名印による)をした以上は、その裏書人は後者に対し、たとえその基本手形の振出行為偽造のため無効であつても、その文言に従つて責任を負わねばならぬことは手形法第七七条第二項、第七条に明定するところである。本来手形行為は手形の文言に従い後者に対し手形上の債務を負担する意思表示であるから、後者がその手形行為の当時既存の手形行為の無効原因を知つていたか否かにかかわらず、当該手形行為の効力に影響を及ぼさせないのが右法条の精神と解すべきであるから、控訴人の裏書が真正になされた以上、本件手形の実際の振出人にその権限があつたか否か、又被控訴人が控訴人の裏書当時その無権限振出の事実を知つていたか否かは詮索する必要はない。仮に悪意の取得者に対しては前者の行為の無効をもつて自己手形行為の無効原因として対抗できるものとしても、被控訴人が、本件手形の振出が無効であると知りながら、控訴人の裏書を受けたこと、或いはその際控訴人主張のような免責の特約をした事実は、これを認めるに足る証拠はなく、反つて、成立に争のない乙第三号証によれば、被控訴人は有効に振出されたものと信じて割引により取得した手形を本件手形に書替えて貰つたのであつて、控訴人は被控訴人との話合により、その際、個人責任を負担する趣旨で、右書替手形に裏書をしたものであることが認められるから、控訴人の抗弁はいづれも採用し難い。

よつて控訴人は、被控訴人に対し、本件手形の裏書人として、その手形金二五万円と、これに対する満期の翌日であること前記手形記載上明らかな昭和三四年一二月一日以降完済になるまで手形法所定年六分の率による法定利息を支払う義務があるから、この請求を認容した原判決は正当で、本件控訴は理由がないのでこれを棄却。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例